ジョージワシントン大学"Patent Law","TIPS"のまとめ(1〜9)

Apr. 27, 1998
菊間 忠之

(本稿は、私の大学受講ノートを再編集したものです。未熟者ゆえ、翻訳ミス、要約ミスなどがあるかもしれません。ご指摘、ご指導を頂ければと思っております。メールでご連絡ください。)

1.イントロダクション

*トレードシークレット(秘密性)
Rockwell Graphic System Inc. v. DEV Indus. Inc.

*トレードシークレット(appropriation)
E.I. duPont & Co. v. Christopher

*トレードシークレット(Remedies)
Kubik, Inc. v. Hall

2.発明要件(Patent Eligibility)

*科学摂理と自然法則
Ex parte Latimer

*コンピュータソフトウエア
Arrhythmia Research Tech., Inc. v. Corzonix Corp.

In re Alappat

*バイオテクノロジー
Diamond v. Chakrabarty

In re President and Fellows of Harvard College


3.有用性(Utility)
*起源
Lowell v. Lewis


In re Brana


4.新規性1(Novelty:Statutory bar)

発明日基準 (a)、(e)、(g)、((f))
出願日基準 (b)、(d)、(c)

*Public use
Egbert v. Lippmann

Is it a public use?

Informing Non-Informing Secret
Inventor Yes
(Pennock)
Yes
(Egbert)
Yes
(Metallizing)
Third Party Yes
(Baxter)
(Yes)?
(Bristol)
No
(Gore)


*発明者の秘密使用
Metallizing Eng'g v. Kenyon Bearing & Auto Parts
発明者による発明の秘密状態での商業的使用は102(b)のPublic useを構成する。
 プロセスや装置の発明で、それによって得られる製造物を販売し続けた場合、通常、製造物から、そのプロセス、装置の内容を知ることはできない。そのプロセス等が秘密状態にあることによって、他人が同じ製造物を得ることを困難にしている。これは一種の独占権である。一方、特許権は出願から20年間の保護を与える。プロセス等が秘密状態のままで製造物を1年以上販売しつづけた後、特許を認めると、さらに20年間のプロセス発明の独占権を得ることになるので、特許権者と第三者との保護が不公平になるからである。

Experimental use
1)Contorol,2)Not Comercial,3)Limited Use,4)Record Keeping
*試験使用
City of Elizabeth v. Am. Nicholson Pavement Co.
 発明を完成するための使用はPublic useにならない。
 舗道に関する技術の性能(有用性、耐久性)を確認するために、所有者の同意を得て、自費で舗道を敷設し、舗道の状態をほとんど毎日観察し、利用者の感想等について通行料徴収人に質問していた。舗道の性質上、公道以外では十分な実験ができないことから、実験は常にPublicで行なわなければならない。しかし、この実験は発明を完成するためのものであるからPublic useでないと判決された。

*On Sale
UMC Electronics Co. v. United States

*Public Use
Baxter Int'l, Inc. v. COBE Labs. Inc.
 発明者とは無関係に(発明者のコントロール無しに、秘密保持義務の無い者が自由に出入りできる場所で)使用された場合はPublic useになる。
 最適な運転条件をみつけるための試験(Refine Test)はExperimental useではなく、Public useになる。

*第三者の秘密使用
W.L. Gore & Associates v. Garlock, Inc.
 発明者本人の秘密使用によって新規性は喪失するが、第三者の秘密使用によっては新規性は喪失しない。

*外国特許
In re Carlson
(論点)
 1)無審査で登録され、他人の独立した創作には、たとえ同一発明でも権利行使できない独国デザイン登録が102(a)の"invention ・・・ patented ・・・ in ・・・ a foreign country"に該当するか?
2)明細書の一部のみが発行されている場合(ただし、明細書全文を閲覧可能な場合)、明細書全文が102(a)の"invention ・・・ patented ・・・ in ・・・ a foreign country"に該当するか?
(判示事項)
 1)独国法が登録により排他的権利を与えたデザインを十分に開示するものであるから、102(a)の先行技術に該当する。
 2)明細書全文を閲覧可能であれば、先行技術になる。実際に閲覧されたかどうかは問題でない。

*Printed Publication
In re Hall
 一大学の図書館に論文が一冊だけでも所蔵されていればPublicationの要件を満たす。
 基準日以前に読むことができる状態にあれば、Printed Publicationになる。
 厳密な日時の立証が困難な(本ケースの)場合、一般的図書館実務に要する手続期間を以て、その論文が読めるようなった日を供述書等で立証できる。
このケースでは、教授会で論文が審査された後、一般的に1カ月で図書館で読むことができるとの供述をもとにして、問題となった論文が読むことができるようになった日を立証した。

*On Sale
Robbins Co. v. Lawrence Mfg. Co.
(事実) 原告R社はオーストラリアのH社に特許に係る機械の販売の申し出をオーストラリアにおいて行なった。その後、R社はH社の担当者とシアトルで契約交渉を行ない、締結に至った。
(判示事項)
 シアトルにおける契約交渉は、"on sale in this country"にあたるので特許無効とした。

*On Sale Bar(102(b))
 米国最高裁は下記判決を支持し、On Sale Barに発明の実施化は必要ないことを確認した(Mar. 9, 1998 S.CT)。
Wayne K. Pfaff v. Wells Electronics, Inc.
(Decided Set. 8, 1997 CAFC)
(事実)
 1980年11月 テキサスインストルメント社(以下、T社という。)はSocketの開発をP氏に持ちかけた。T社との打ち合せ後、P氏はSocketについてのコンセプトを示すスケッチを、さらにその後、ソケットの詳細な技術図面を作成した。
 1981年2又は3月に、P社は、特注器具を製作するW社に図面を送付した。
 1981年4月8日、T社の子会社D社はP氏の会社にソケットの購入注文書を発行した。この注文書は1981年3月17日の口頭注文の確認をするものであった。
 1981年7月、P氏はW社に下請負させ、W社からSocketを受け取った。
      その後、耐久試験を行い、問題ないことを確認して出荷した。
 1982年4月19日、P氏は特許出願をし、その後、特許を取得した。
 P氏はW社を特許侵害で提訴し、地裁は、一部のクレームは先行文献と実質同一ゆえ無効、クレーム発明はOn Saleではない、W社の製品は侵害と判決した。両者とも控訴した。
(争点) On Sale BarにおいてReduction to practiceが必要か否か?
(判示事項)
 102(b)は特許権の存続期間の実質的延長を阻止するために制定されている。発明がOn saleか、否かの判断については、UMC事件の「販売及び申出の状況全体を考慮して判断する」との先例がある。地裁は基準日(出願日の1年前)に発明製品(Physical embodiment of the invention)が存在していない、Reduction to PracticeされていないのでOn saleではないとした。
 しかし、102(b)のOn Sale Barの判断においてReduction to Practiceは必要がない。発明者が顧客に注文され得るまたは注文された製品を持っていると考えているかどうかがOn Saleに要求される。
(判決)
 P氏は発明を示す図面を作成し、製作器具を準備させるために、その図面をW社に送付している。製作器具とは製品を製作するための押出ダイ、型、リベット等をいう。
 本事件は機械分野の発明であり、器具が揃えば、それらを組み立てるのは容易であった。従って、基準日前にSocketは実質上完成していた。Socketのプロトタイプを製作していなくても、P氏は既に発明が機能することを確信していた。耐久試験は、Socketの耐久性を調べるものであった、Socketが機能するかどうかを確かめるものではない。耐久性は商業的要件であって、発明完成の要件ではない。
 従って、P氏の発明は基準日前にOn saleされていたので無効。

*102(d)
In re Kathawala
 米国特許出願前に、同一発明者による同一発明がギリシャ、スペインで特許されていたために米国出願が拒絶された。
 該外国特許は製法クレームであり、米国特許は化合物クレームであったが、実質的に同じものであるとされた。
 外国特許にその外国法における無効理由があったとしても、102(d)の問題とは無関係である。
 102(d)の外国特許日とは、特許が確定した日(日本法では登録日)をいい、明細書発行日(日本法の登録公報発行日)ではない。また、102(d)のPatentedには公衆に利用可能であることが要件となっていない。


5.新規性2(Novelty:Prior Invention)

Woodcock v. Parker

*使用(Public use v. Secret use)
Gillman v. Stern
発明前に同じ発明がなされているか、またはなんらかの方法でその結果を公開している場合は、特許を受けることができない。
 ハース氏は、特許発明装置と同じ働きをする第一装置を発明していたが、この装置には不満足であったので装置をしまい込み、その実験は放棄された。
 続いて、第一装置とは異なる第二装置を発明した。
 ハース氏の装置、プロセス、及びそれにより得られる製造物は、他の従業員には知られておらず、第三者がアクセスできないように秘密保持の努力がなされていた。
 ハース氏の使用は"Secret use"であって"Public use"ではないので特許は無効でない。

*着想(Conception)と(Deligence)
Oka v. Youssefyeh
着想の要件 
 1)発明の特徴に関する知識を有していた。
  化合物の構造、用途など
 2)その発明を再現するための知識を有していた。
化合物の製法
 化合物の製法が、常識的な製法技術であって、当業者の通常の知識の範囲にある場合は、化合物が記述された時に着想されたものとみなすことができ、製法についての立証を要しない場合もある。
 化合物と製法とは一致している必要がある。
 このケースでは、特許化合物と、特許化合物外の化合物の製法についての知識があったことを立証しても足りないとされ、その製法が後に特許化合物の製法であったことが判明した時点で着想されたと判断された。
(勤勉性)
シニアはジュニアの出願日前に実施化していること、または着想日から実施化日迄の期間についての勤勉性の立証が必要である。

*着想
Bosies v. Benedict(30USPQ2d1862)
(事実)後願発明者のノートに、先願の優先日(先願はドイツ出願を基礎とする優先権主張出願)より早い日付で化合物が開示されており、その化合物はメチレン基がn個有すると記述されていた。
 特許発明は2〜8であった。後願発明者のノートには特許発明よりも広い概念の化合物が開示されていた。
 ノートに署名をした証人が「nは1または2を意味すると理解して署名した」との証言があった。
(判示事項)
 発明者はインターフェアレンスのカウント内にあるスピーシーズをいつ着想したかを証明すればよい。カウント全体の着想日を証明する必要はない。
 カウントよりも広い概念の着想を立証しても、カウントの着想日の証明には不十分である。発明が着想された時にはカウントに含まれる化合物が具体的に定義されていなければならない。
 証人の証言は発明者の意図を示していない。

(カウント)
 ファントム(仮想)カウント=競合するクレームのORの範囲で先発明を争う。
 通常のカウント=競合するクレームのどちらか広い方をカウントにする。
どのようなカウントにするか両当事者で決めて先発明を争う。カウントの決め方によっては発明日立証の優劣が生じるので、注意が必要である。
 当事者はカウントに含まれるクレーム発明についての立証をすればよい。すなわち、甲が化合物Aをクレームし乙が化合物Bをクレームしていたとき、カウントは化合物Aと化合物Bとを含む広い概念で定義し、甲は化合物Aの発明日を乙は化合物Bの発明日の立証に努力する。そして発明日の早い者は、該者がクレームする範囲(カウントの範囲ではない)について権利を取得できる。

*発明の実施化
Scott v. Finney
(事実) ペニスの勃起持続器具に関する特許の抵触審査において、JuniorのScottがペニスにその器具を取り付けて、操作しているビデオと、ペニスに代わる物質を使って、その器具によって一定期間勃起を持続できることを示す証拠を提出した。しかし、審決では、Scottは実際の性交での使用による結果を示していないから発明の実施化に至っていないとして、Finneyに特許した。
(判示事項)
 実際の使用がなくても、意図する目的のために通常条件下で十分に働くであろうことが予想できる程度の試験を行なっておれば、それによって発明の実施化はされたと考えられる。よって、Scottに特許する。

*発明の実施化
Holmwood v. Sugavanam(20USPQ2d1712)
(事実) 先願S社は英国出願を基礎に米国出願した。
 後願H社はS社英国出願前にドイツにおいて試験を行なっていた。その結果は米国のDr.に報告され、英国出願前にDr.は助手に実験を行なわせ、報告書を書かせた。その後米国出願した。
 抵触審査においてDr.が米国において行なわれた実験の結果を証言した。S社はDr.の証言は伝聞証拠(助手の報告書に基づくもの)であるから証拠能力がないと反論した。

 [米国証拠法:
  証拠能力の基準
 A.伝聞証拠でないこと
  伝聞証拠の基準
  1)hear-sayでないこと、
  2)裁判所外でなされたStatement(特定の事実を立証するための)
   であること
          例)Business record
           但し、1)その記録が通常の業務として記録され、
              2)当該事実の発生の時に即記録され
              3)業務記録として保管されている場合は
              伝聞証拠にはならない。
 B. Authenticationがあること
  文書作成者と第三者の署名行為のような宣誓的行為が必要。
  印鑑でも良いが、印鑑の保管状況が問題になる
             (第三者が自由に押せる状態では不十分)
  昨年、電子データの基準を特許庁が発表したらしい。

(判示事項)
A.発明の実施化に関する認定は"Clearly Erroneous standard"で判断される。
B.発明日の立証は"Preponderance of the evidence"に基づき判断する。
  "Preponderance of the evidence"=51%の信憑性を証明すれば勝つ基準
  "Clear and Convince evidence" =約80%の信憑性を証明しなければ勝てない基準(特許無効、衡平法上の判断、3倍賠償、仮差押えなどの立証に必要)
C.Sufficiency of evidenceは"Rule of reason standard"で審理
 PTOは発明者の主張の信憑性を検討する際に合理的に関連性のあるすべての証拠を審査、分析、評価しなければならない。
 Dr.は実験を指揮監督しており証人として最適、助手に証言させてもDr.の補助をしただけなのでDr.の証言と重複する。
 Dr.の証言の信憑性に問題があるようなときに、助手の証言(Sufficient Corroboration)が必要になる本件では不要。
 一般に発明者本人の証言にはCorroborationが必要である。科学者の証言は発明者の発明実施化をCorroborationするものである。

*発明の実施化
Bigham v. Godtfredsen(8USPQ2d1266)
(争点) 英国出願に基づく優先権により発明日を立証できるか?
(判示事項) 優先権が有効になるためには英国出願が米国法112条の要件を満たしていなければならない。
 G社の英国出願はハロゲンとクロロの開示だけで、ブロモ及びヨオドの開示が無かった。
(優先権証明書) 政府等発行の書類は宣誓なしでも有効な証拠となる。したがって、出願中に優先権証明書を出さなくても、優先権を主張しなくても又はできなくても、訴訟中に優先権証明書を出せば、日本出願日を以て発明日の立証が可能である。

*Dilligence
Gould v. Schawlow(150USPQ634)
1)抵触審査においてJuniorが勝つためには
 ・Seniorの出願前に発明を着想していたこと、
 ・Seniorの出願前からJuniorの出願日までの間Reasonable Dilligenceがあることを
 立証する必要がある。
2)Reasonable Dilligenceの立証では、何を、何時行なったかを示す事実に支持された、発明に関する研究を1週間たりとも休んだことがないという宣誓がなされなければならない。
3)単なる談、熟慮下のアイディアの保持以上のものがDilligenceを形成するために必要である。
4)生計を犠牲にしてまで行なうことがDilligenceではない。
5)"Due Dilligence" v. "Reasonable Dilligence" (4USPQ58)

*Dilligence
Griffith v. Kanamaru(2USPQ2d1361)
(争点)”継続的”の意味、釈明可能な中断か否か?
(判示事項)
 人員不足(本ケースでは大学の学期スケジュールの関係で新入生の入学を待っていた)による中断、
 資金難による中断は中断を釈明できない理由である。
 本ケースの場合、特にDrは、該研究を中断して、他の無関係なプロジェクトに参加していた。
 バケーションによる中断は釈明できる理由である。

*Corroboration
Hahn v. Wong
 発明者は発明の実施化の立証に際して、自身の供述書と関連書類以外に独立した補強証拠を提出しなければならない。
 そのような証拠は、実施化のための発明者以外の者に証言であってもよいし、発明者から得た情報とは独立した状況証拠であってもよい。
 化学物質の発明の実施化を立証するためには”発明者が実際にその物質を調製し、且つ、それがある作用を有することを知ったことを立証する必要がある。

*102(g)
Dunlop Holdings. Ltd. v. Ram Golf Corp.
Wは組成を知られないようにしてその組成のゴルフボールを製造販売していたこのことはNoninformingではあるが秘密隠ぺいにあたらないとした
 Public useの条件
 1)発明の利益を公衆に与えたこと、新しいアイデアが市場でのインパクトを持ち、科学と有用な技術の進歩を促進するのなら、それは経済的な意味で秘密ではない。
 2)明白な発明概念の開示が無くても、公衆が発明それ自体を自由に利用できるのなら、発明者が適当な時期に出願した場合の権利満了時期よりも十分前に潜在的な競争者によってその秘密は暴露されたとみなされる。
 3)発明者は出願する義務ないから出願しなかったことによって、自身の発明を市場に出す努力を続ける権利が害されるのは公正ではない。

Paulik v. Rizkalla

*102(e)
Alexander Milburn Co. v. Davis-Bournonville Co.
 A社が1月に出願し、D社が3月に出願し、ともに特許された。A社特許の明細書には、D社特許クレームの発明が記述されていた。しかし、A社特許にはそれをクレームしていなかった。
(判示事項)
 A社特許のクレームしなかった発明について、
 1)B社特許のクレーム発明の最初の発明者は事実上B社ではない。
2)A社が情報を開示し、B社が特許されるという矛盾が生じる。
 3)A社はクレームしなかったことによりその発明を放棄しているのだから、公衆が自由に使えるべきものである。
 従って、B社に該発明を特許すべきでない。

6.予測性(Anticipation)

Lewmar Marine Inc. v. Barient Inc.

Continental Can Co. v. Monsanto Co.

Titanium Metals Corp. v. Banner


7.非自明性(Nonobviousness)

103条の先行技術
 102(a)   Yes  (Stryker)
    (b)   Yes
    (c)   ?(Yes)
    (d)   ?    (Kathawala)
    (e)   Yes
    (f)   Yes 103(c)
    (g)   Yes 103(c)

Graham v. John Deere Co.

United States v. Adams
 アダムス特許:電極がマグネシウムと塩化銅、電解液が純水又は食塩水
 先行技術: 電極が亜鉛と塩化銀
      亜鉛をマグネシウムに置換できるが、
                実用的でないと考えられていた。
(判示事項)
 全く予想外の有用な操作特性を有する。
 各エレメントは公知であるがその組合せは当業者に長い間に受け入れられていた常識を無視するものである。
 従来技術は当該発明を思いとどまらせるようなものであった。
 従って、アダムス特許は非自明性を有する。

Newell Cos. v. Kenney Mfg. Co.
(事実)
 ウィンドシェードに関する特許
 特殊な材料製のシェードで、そのシェードの幅に応じて長さを調整できるローラーとからなるもの。
 シェード材料は公知、長さ調整できるローラーも公知。
(判示事項)
非自明性の判断は事実の推定ではない。商業的成功や、他人のコピーなどの二次的要因だけを考慮して非自明性を推定してはならない。

*Analogous
In re Clay
 103に適用できる先行技術が類似性"Analogous"を持つことが要求される。
類似性の判断
 1)引例及び本願発明で取り組んだ問題に関して、フィールドが同じか否か
 本ケースでは、本願は精製液状炭化水素の保管を目的として、デッドスペースにゲルを大気圧下、周囲温度で注入する。
        引例は原油の抽出を目的として、制限されない空間にゲルを加圧、高温で注入する。
 両者のフィールドは異なる。
 2)引例のフィールドと本願発明のフィールドとが異なるとき、その引例が発明者が抱える特別な問題に合理的に関係するか否か?すなわち引例が、動機付け、機会を与えるかどうかである。
 本ケースでは、保管タンクのデッドスペースから炭化水素を排出させ、炭化水素のロス、コンタミを防ぐ。
 一方、引例は堆積岩からの抽出、詰まった原油の流れを向上させる。

*Hindwsight reconstruction
In re Winslow
 「発明者は先行技術文献を壁に下げた部屋の中で働いている」というイメージで非自明性を判断するのは危険である。
 先行技術を知っているとしても、それは多量にそして無秩序に並べられている。審査官は最も近い先行技術のみを目の前にぶら下げられている発明者の状態で判断してしまうことがある。このような判断はHindsightになる。


8.明細書(The specfication)

How to make and How to use = Enablement  Every patent
            Best mode Every patent
            Written Description claim amendment

*How to make
Gould v. Hellwarth
 Gouldはレーザを発明し、それについて出願を行なった。その明細書にはレーザを製造する上で必要なパラメータが開示されていなかった。
 Gouldはレーザの知識を持っている人ならこの開示で十分にレーザを製造できると主張した。
 が、種々のレーザが完成したのはGouldの出願以降であったので、出願時においてはレーザを製造することができなかったとして、gouldの明細書の開示は不十分と決定した。

*開示要件(実施可能性)
Atlas Powder Co. v. E.I.duPont De Nemours & Co.
 D社はA社特許は112違反で無効を主張した。
 D社の主張:A社特許の明細書には塩、燃料、乳化剤などが記載されているが、どの組合せが良いかについての十分な記載がない。単に成分の候補を羅列しただけで当業者が実施するに際し不当な実験を強いられる。
(判示事項)
 D社主張のような開示は不可能である。当業者なら当該明細書によってどの組合せが良いか予測できる。
 開示した中のいくつかが動作不能でも、それが常に無効理由になるとは限らない。但し、動作不能の割合が不当に多い場合は問題がある。
実際に実験していない実施例(予言的実施例)だからと言って自動的に無効になるわけではない。

*How to use
In re Gardner
当業者が発明を実施できる程度に開示しなければならない。
 単に一般的使用方法を記述するだけでは足りない。本ケース(薬に関する発明)では、単に薬を口経あるいは非口経で一日あたり10〜450mg投与すると記述してあるだけであった。さらに、人間または動物への投与実験の結果が開示されていなかった。本明細書の記述だけでは薬効が得られるように当業者が発明を実施できないと判断された。

*112(1)、New Matter
Application of Barker
 112(1)の実施可能要件と発明開示要件とは区別すべきである。実施可能要件を満たしても発明開示要件を満たさないことがある。
当初明細書には8または16と記述しており、少なくとも6という記述はない。クレームに少なくとも6という限定をすることは明細書、図面で支持されておらずニューマターである。

Vas-Cath Inc. v. Mahurkar

*Best mode
Chemcast Corp. v. Arco Indus. Corp.
ベストモードの開示はクレームの範囲について行なう。
 単に発明の作り方、使い方を示すだけではベストモード開示要件を満たさない。
 たとえ、ベストモードの開示内容にトレードシークレットが含まれていたとしてもそれを開示しなければならない。
 ベストモードが開示されたか否かの判断では、当該技術分野の技術水準が考慮される。
 ベストモードであるか否かの判断では、1)発明者が米国出願時(優先日ではない)に他のいずれよりも良いと考えるクレーム発明の実施モードを知っていたか?2)好適なモードを考慮した事実があるときにそれを隠したか否か?が考慮される。

*図面の補正
In re Daniels(97-1225, Decided May 20, 1998 CAFC; Newman)
(事実)
 D氏はヒル捕獲器の意匠を創作し、June 22,1992にAmerican Inventors Corporation(以下、AIC)を通して意匠特許出願をした。出願には、上面図と、底面図と、側面図(葉の模様で側面は装飾されていた)が含まれていた。
 出願係属中に、米国連邦取引委員会が、American Inventors Corporationを詐欺的な発明助成の計画を行ったとして告発した。告発によれば、AICはユーティリティー特許の変わりに意匠特許を出願し、ユーティリティー特許と意匠特許の違いを隠すことによって発明者を誤った方向に導いたとしている。また証拠として、クライアントは特許が発行するであろうとの保証を与えられ、AICの製図者は意匠特許として発行しやすくするために図面に装飾的なものを加えたことを挙げていた。
 April 1, 1994にD氏は、新しい代理人を通して、継続意匠特許出願をした。そして、図面から葉の模様を削除する補正をした。その他は変更がなかった。
 継続出願は、先の出願の出願日の利益を受けることができず、本人が配布したパンフレットによって拒絶された。審判請求したが、審判では「120条は後の出願の主題が先の出願に開示されたものと同一性があることを要求している。意匠は一元的なものであるから、図面補正によって意匠特許の優先権(先の出願の利益:120条)は消失する。例えばIn reSalmonでは先の出願で四角形台座を持ついすを後の出願で円形台座を有するいすに変更した。」として請求を棄却した。
(判示事項)
 120条は意匠特許にも適用がある。そして、先の出願が112条を満たす開示をしていること、後の出願の主題が先の出願に開示されているものであることが適用要件である。
 葉の装飾は、先の出願に開示されていたヒル捕獲器の意匠を覆い隠すものでない。葉の模様は内在する意匠を無効にしない単なるしるしである。後の出願の意匠は先の出願の意匠と共通している。先の出願の意匠は後の出願の意匠を含んでいることは明らかである。

9.クレーム(Claims)

*Omunibus or formal claim(明細書の記述を参照することのみで発明を定義しているクレーム)
Ex parte Fressola
 オムニバスクレームは拒絶する。
 従来はCentral definitionだったので認められていたが、現在はPeripheral definitionになったので、クレームがstand aloneで発明を定義することを要求する。
 オムニバスクレームは特許でカバーされる発明を記述するというクレームの記述目的を失わせる。また、発明の定義が曖昧になる。参照される明細書の記述も曖昧である。
 クレームの解釈として、明細書を参照するという原則はそのままであるが、クレームの記述方法としては、明細書の記述を参照することは許されない。

*112(6)
In re Donaldson Co.
 ミーンズクレームは、明細書に記載されている構造、物質、あるいは行為、及びそれらの均等物を考慮して、その用語の意味を解釈しなければならない。
 特許庁ではミーンズを広く解釈していた。すなわち、ミーンズに規定される機能を持っているものはすべてクレームに含まれるとしていた。本判決により、裁判所と特許庁との解釈が統一された。

York Products Inc. v. Central Tractor Farm&Family Center(40USPQ2d1619)
 "means"の用語を発明者が記述したことは112条(6)の適用を意図していたという推定になるが、
 もっぱら詳細な構造を記述している文中において"means"の用語を用いても112条(6)の適用を受けない。
 機能だけを記述している場合に112条(6)が適用され、具体的構造を記述しているものは形式上"means"の用語を用いても112条(6)が適用されない。

112条(6)が適用される例、適用されない例

A) clamp means having a pair of semi-circular bracket means connected with screw means

"clamp"は構造を特定する言葉であるので、非適用。

B) means having brackets connected with a screw for holding a measuring device on a rod

 "having brackets connected with a screw"は具体的構造を示しているので、非適用。

C) means for clamping a measuring device on a rod

 "means for clamping"はミーンズクレームの基本文型である。適用。

D) measuring unit measuring dimensions of a rod

 "unit"や"device"などは"means"と同じように構造を示すものではない。適用。
 もちろん"unit"や"device"については明細書の中で具体的構造を示してあることが必要。

E) a clamp holding a measuring device on a rod

 "clamp"は具体的構造を示す語。非適用

F) clamp means for holding a measuring device on a rod

 "clamp"は構造を示す語であるから、たとえ"means for holding"の語があっても、非適用。

G) clamp mechanism for clamping a measuring device on a rod

 "mechanism"は"means"と同様の意味あいを持つが、"clamp"は構造を示す語であるから、非適用

Greenberg v. Ethicon Endo-Surgery Inc.(39USPQ2d1783)
 "detente mechanism defining the conjoint rotation of said shafts"は112条(6)を適用されない。
(理由)
 "detente mechanism"のような機能的表現で定義されたmechanismという表現を、112条(6)で定義する"means for performing a specified function"に転換できるとするには不十分である。多くのデバイスの名前は機能に由来している。例えば"filter","brake","clamp","screwdriver"や"lock"が挙げられる。
 "detente"は辞書的にはデバイスの一つを指すもので、上記例示したものと同様の用語である。
 重要なことは、その用語が、構造に関する名称として、その技術分野で十分に理解されているかどうかである。
 "detente means"の用語が明細書の"summary of the invention"の部分に2回使用されているが、明細書全体を精読すれば、この表現が、構成要件を説明するために簡略化したにすぎないことがわかる。
 Interspiro事件では"detente means for moving and maintaining the movable member"の古典的表現に112条(6)の適用があった。このことは"means"を用いたときにのみ適用されることを意味しない。"means"の使用は112条(6)の適用を求めたことを推定させるだけである。

H) clamping means for holding a measuring device on a rod

 "clamping"は動詞であるから、機能だけを示す。名詞の"clamp"は構造をしめす。適用

I) a member holding a measuring device on a rod

 "member"は"means"と同様。適用

Cole v. Kimberly-Clark Corp. (41USPQ2d1001)
(争点)"perforation means extending from the leg band means to the waist band means through the outer impermeable layer means for tearing"の表現に112(6)が適用されるか否か?
(判決)
 この文章には、破るという機能を実現するための構成(すなわちミシン目)のみならず、
 その位置(脚部締め付け部から腰部締め付け部)及びその広がり(外部浸透層を貫通する)が記述されている。
 従って、112(6)は非適用。"perforation means"は単にミシン目と解釈するのが相当である。

*機能的表現
Orthokinetics, Inc. v. Saftey Travel Chairs, Inc.
 車の部品に関する特許のクレームに記された"said front leg portion is so dimensioned as to be insertable through the space between the doorframe of an automobile and one of the seats thereof"が112を満たすか?
(判示事項)
112条(1)は、1)明細書に記述された発明をクレームしなさいと要求し、2)明瞭、簡潔に記述しなさいと要求している。
 また、112(2)は当業者が実施できる程度に記述しなさいと要求している。
 様々な大きさの車があることから"so dimensioned"の記述は正確である。当業者であれば、その"dimension"を容易に得ることができる。112条は、出願人にすべての車種に対応する長さを記述させることまで要求していない。

*ミーンズプラスファンクションの解釈
Chiuminatta Concrete Concepts Inc. v. Cardinal Industries, Inc.
(97-1194,-1401; Decided May 14, 1998 CAFC)
 1)クレームの限定(ある機能を実行するための手段という表現で表されている限定:ミーンズプラスファンクション)が文言上満たしているかを決定するために、裁判所は被疑侵害物の構造と明細書に開示された構造とを比較し、そしてクレームされた機能と一致する明細書記述の構造に均等な構造を探らなければならない。クレームされた機能の解釈は法律問題であり、判事が判断する。均等な構造か否かは、比較する両者間に非実質的相違があるかどうかで判断する。
 2)112条6項の均等と、均等論の均等の両者は共に、わずかな改良やごまかし的な変更をして権利侵害を回避するような行為から権利者の実体的権利を守る。112条6項の均等は機能的表現で限定された文言上のクレーム範囲に明細書に記述された構造に均等な物を組み入れることによって権利者を保護する。一方、均等論の均等は文言上のクレーム範囲を外れた均等物を侵害物とみなすことによって権利者を保護する。両者は非実質的相違があるか否かの類似な分析方法を適用することによって判断されるから、ミーンズプラスファンクションクレームにおいて、被疑侵害物に112条6項の均等物がないことによって文言侵害がないとの判断がなされたら、均等論の均等物もないとしてもよい。
 しかしながら、112条6項と均等論とには重要な相違点がある。均等論は未来を予測できないことから必要なのである。特許発行後に、技術の発展によって、発明の変形態様が開発されることができる。そのような変形態様が特許されたものから非実質的な変更(特許侵害とするべきであるような)でなされることがある。後から開発された技術を基礎になされた変形態様を特許に記述することは不可能である。だから、たとえ特許に記述された構造と均等なものでないということで112条6項の均等物でないとしても、均等論の均等物であるかどうかの分析を行うことは排除すべきでない。

*ミーンズクレームの均等物の解釈〜法律問題か、事実問題か?
Cybor Corporation v. FAS Technologies, Inc. and Fastar Ltd., 96-1286,-1287 Decided:March 25, 1998 CAFC en banc
(多数意見)
 侵害の判断は2ステップで行なう。第一ステップでクレーム解釈し、第二ステップでイ号とクレームとを比較する。
 ・第一ステップのクレーム解釈はMarkmanで示されたように法律問題である。従って、地裁判事が検討し、高裁はde Novo基準で検討する。
(Mayer判事少数意見)
ミーンズクレームの解釈では、判事は明細書に開示してある構造等及びそれらと均等な物を検討しなければならない。
 Markman(52 F.3d 977)は、均等物の決定のために、地裁は、陪審の専門的意見に頼って、事実問題を解決しなければならない、と述べている。Palumbo(226USPQ 5)などでは、イ号が112(6)の均等物であるかどうかは事実問題なのか?法律問題なのか?明確にしていない。
 実務的理由から、陪審が侵害の有無を決定する時と同時に、この112(6)の均等物の問題の解決がなされている。
 ・第二ステップでは、まず文言侵害の判断がされる。すなわち、イ号がクレームの各リミテーションをもっているか否かが判断される。
 次に、均等論侵害が判断される。イ号の構成とクレームのリミテーションとの差異が非実質的であるか否かが判断される。
 判事が、ミーンズクレームと、明細書に記述される構造等及び陪審によって決定されたような均等物との対応を一致させて、クレーム解釈した後、判事は陪審に侵害の決定のために解釈されたクレームを示す。
 陪審は、イ号がミーンズで規定されるリミテーションと一致するFunctionで機能するか否かを決定し、もし一致するFunctionで機能しなければ文言侵害はないと結論し、もし一致するFunctionで機能したならば、さらに陪審はイ号が明細書に記載されている構造等及びそれらの均等物を利用しているかどうかを決定しなければならない。
 112(6)と均等論とでは、その背景、目的が異なるので、その解析方法が異なる(Alpex 102 F.3d 1222)。112(6)では、審査中の主張によってミーンズの均等物の範囲は狭くなっていく。一方、均等論は、クレームの開示を超えて範囲を広げようとするものである。
 解釈されたクレームの指示だけでは、権利者が審査中で放棄した事項を陪審の検討から除外するには不十分である。
 判事は、解釈されたクレームと同時に、審査経過によって、均等として広がってもよい範囲又は広がってはいけない範囲を陪審に指示するのが望ましい。

*ミーンズクレームの均等物と均等論の均等物
Dawn Equipment Company v. Kentucky Farms Incorporated, 97-1042 Decided March 24, 1998 CAFC
(事実)地裁陪審は、ミーンズクレームの文言侵害はないが、均等論侵害ありの評決をした。D社はJMOLを要求したが、棄却された。
(Plager判事の追加意見)
 Valmont(983 F.2d 1043)及びAlpex(102 F.3d 1222)では、112(6)及び均等論の均等物の両方に、非実質的変更の概念を援用した。112(6)及び均等論下の均等物についてのテストは同一でないとしても、全く同様であると示唆している。同ケースでは112(6)には3要素テストを適用しないと述べている。
 また、同ケースでは112(6)はミーンズに対応する明細書に開示された構造等とイ号とを比較し、均等論ではクレームのlimitationとイ号とを比較すると、述べている。
 しかし、この区別は重要ではない。Alpexでは、均等論の目的のために、明細書に記述された構造等を援用するミーンズクレームのLimitationとイ号とを比較している。
 他方、Valmontでは、均等論判断のための3要素テストを行い非侵害の結論を出した、その理由としてイ号は明細書に開示されているものと相違すると述べている。
 これらの結果から、均等論であろうと、112(6)であろうと、ミーンズに対応する明細書記述の構造等と比較しなければならないことを意味することになる。
 均等論及び112(6)の均等物は、同じテスト、同じ分析方法で解釈するのが妥当であると考える。

*測定値
PPG Indus. Inc. v. Guardian Indus. Corp.
(事実) 原告の特許には紫外線透過率31%以下が要件となっていた。この数値は誤った測定装置で測られたものであった。真の値は該装置の測定値よりも約3%高い値であった。
 被告製品の該装置による測定値では31%超であった。真の値は31%以下である。
(判示事項)
 クレームは該装置による誤った測定値で規定されるものではなく、真の透過率で判断すべきである。(本クレームは測定値で規定していない。)
 発明者は測定値を誤って測定して、それをクレームしているが、発明者が発明とみなした主題を明瞭にクレームできなかったとは言えないので112(2)に該当しない。

*クレームと明細書との関係
Gentry Gallery, Inc. v. Berkline Corporation
(97-1076,-1104,-1182,Decided JAN. 27, 1998 CAFC)
(事実)特許権者G社はリクライニングソファーの特許権(USP5064244)をもっていた。
 G社特許のClaim 1の要旨は次の通りであった。
 A sectional sofa comprising:
a pair of reclining seats disposed in parallel relationship with one another in a double reclining seat sectional sofa section being without an arm at one end(a),
 each of said reclining seats having a backrest and seat cushions and movable between upright and reclined positions(b),
 a fixed console disposed in the double reclining seat sofa section between the pair of reclining seats and with the console and reclining seats together comprising a unitary structure,
 said console including an armrest portion for each of the reclining seats; said arm rests remaining fixed when the reclining seats move from one to another of their positions,
 and a pair of control means, one for each reclining seat; mounted on the double reclining seat sofa section.
 従属クレームには制御手段がコンソールの上に設置されたソファーが記述されていた。(Fig.1)
 1991年に、G社はB社を特許権侵害でマサチュセッツ連邦地裁に提訴した。
 これに対して、B社は、北カリフォルニア中部地区地裁に提訴していた、特許無効及び非侵害の確認の訴をマサチュセッツ連邦地裁に移管した。確認の訴をG社の特許権侵害の訴と併合した後、B社は不公平行為によって特許権の権利行使不能を求めるカウンタークレームを追加した。
 地裁は、B社は特許非侵害の判決をし、またG社特許は有効で、権利行使可の判決を下した。さらにG社の弁護士費用(B社の不公平行為の主張を覆すために要した費用)を求めるモーションを棄却した。
 G社は権利非侵害と弁護士費用却下の判決に対して控訴し、
 B社は特許権有効の判決に対して控訴(クロスアピール)した。
(CAFC判決)
A.特許権侵害
 クレーム解釈は法律問題だから、CAFCはde novoレビューを行なう。本ケースではイ号の構造についての争いがないので、侵害判断はクレームの解釈だけを行えばよい。クレームの解釈は、クレームの文言、明細書の詳細な説明部分の記述、審査経過及び、必要があれば外部証拠に基づいて行われる。そして、均等論によるクレーム解釈には包袋禁反言の解析が含まれる。
(クレーム解釈)
a)Fixedの解釈
 B社は、コンソール部分に動作部分がないことを意味すると主張し、G社はリクライニングシートとコンソールとが単に固定されていることを意味すると主張した。
 CAFCの判断:審査中にシートが固定されていないソファーを開示する引例による拒絶理由を覆すために、"fixed"と"with the console and reclining seats together comprising a unitary structure"をクレームに追加記載した。"fixed"はコンソールとがリクライニングシートに単に固定されていることを要求していると解される。さらにB社の解釈は不必要な限定になっている。244特許の実施例は、コンソールにピボットで固定された蓋が設けられている。
 従って、"fixed"はリクライニングシートとコンソールとが単に固定されていることを意味する。
 B社のソファーはセンターシートとリクライニングシートが固定されているので、Fixedの要件を満たす。
b)Consoleの解釈
 G社は、2台のリクライニングシートの間にあって、リクライニングシート間に隔たりを設けるもので、テーブルトップの様に機能させることができるものであると主張した。
 しかし、審査中にBrennan特許(USP3877747)による拒絶理由を覆すために、コンソールは前に倒れてテーブルトップとして利用できるシートバックをもつセンターシートとは異なるものであると主張していた。(Fig.2)
 審査経過禁反言によりコンソールはテーブルトップとして利用できる可倒式背もたれを備えたものでないことを意味する。
 B社のソファーはテーブルトップとして利用できる可倒式背もたれを備えたものであったので、コンソールを備えていないので、"console"の要件を満たさない。
 よって、B社は特許権を侵害していない。地裁の判決を認める。
B.特許権の有効性
a)103
 B社は、Talley特許(USP4668009)に記載されている発明から自明であるから特許は無効と主張した。
 Talley特許は、サイド部に押しボタン式の制御手段が設けられているアームレスリクライニングシートを開示していた。B社は、Kanowskyによって開発されたSectional sofaとしてTalleyのシートを2個つないで使用することは自明であると主張した。
 しかし、Talleyのソファーはサイドにボタンがあるので、2個を並べてつなぐことには適さない。さらに、それらを組み合わせても"fixed console"が備わっていないソファーを想到するだけであった。
 従って、G社特許は非自明である。
b)112
 G社は、「クレームをサポートするために広いクレームの範囲で少なくと1つの実施態様を記述すればよい」という判決(Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. United States Surgical Corp., 93 F.3d 1572, 40 USPQ2d 1019と、In re Rasmussen, 650 F.2d 1212, 211 USPQ 323)を引用し、明細書には制御手段をコンソールに設けた好ましい実施態様だけを記述したのであって、制御手段はコンソール以外の場所に設けることができると主張した。
 しかし、明細書には制御手段をコンソールに設置したソファーしか開示していなかった。制御手段をコンソール以外の場所に設置することを示していなかった。
 また2台のリクライニングシートのコントロール手段を収容したコンソールを備えたSectional sofaを提供することが発明の目的であったから、制御手段をコンソール以外の場所に設置すれば発明の目的を達せない。さらに、発明者はB社品を見るまでコンソールの上以外の場所に制御手段を設置することに気づいていなかった。
 クレームは制御手段をコンソール以外の場所に設置したソファーを含み、明細書の記載より広い範囲をカバーしている。クレームは明細書の記述によってサポートされておらず、従って、本クレームは112条(1)の要件を満たしていない。
 従って、特許有効とした地裁判決を取り消す。
 クレームの範囲は実施例に限定されるものではないが、狭い範囲しか開示していない明細書でクレームをサポートしていない場合は権利範囲は限定される。
 クレームの範囲は先行技術の存在しないところまで広げることができるというものではなく、むしろ、明細書にサポートされている範囲までしか広がらない。
C.弁護士費用
 弁護士費用を認めるための要件として、1)特別(exceptional)な事件であること、2)地裁が決定権をもつ、3)弁護士費用がリーズナブルな額であること、そして4)勝訴者(prevailing party)に与えられること、が挙げられる。
 本ケースでは、G社はB社の権利行使不可の確認の訴に勝訴したが、他の争点では敗訴している。prevailing paryとなるためには、訴訟において、損害賠償や差止などの請求を認められなければならない。G社は4)の要件を満たしていないので、弁護士費用は認めない。

続き(10〜14)